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why the fuck am i reading nine bullet revolver in japanese
巨人はそれが誰であるかも判らず、大剣を振り下ろそうと
「イリヤァァァアーーーーーーーーー!」
走る。
飛ばされた距離は十メートルほど。 こんな距離は一瞬だ。走れば絶対に間に合う。 一息分の呼吸、ジェット気流の如く全身を駆け巡る血液麻薬推進剤、発火する思考は紫電の如く! 踏み込む。
体は軽い。時間は止まって感じられる。
これなら間に合う。
絶対に間に合う。だが、間に合ったところで。
黒鍵では歯が立たなかった。俺では歯が立たなかった。
だから。 摸索し検索し創造する。 ヤツに勝てるモノ。 この場でヤツに太刀打ちできるモノは。 明瞭だ。 即ち、ヤツが持つ大剣以外有り得ない! 防いだ。
“投影”は当然のように成功し、巨人の斧剣を受け止めた。「 あ」 亀裂が入る。 投影で作り上げた斧剣に亀裂が入る。 それは、同時に、「!」「あああああああああああああああ!」 使ってはならないモノを使った俺への、死に近い反動だった。
弾かれる。
巨人の第二撃を防いだ斧剣は粉々に砕かれ、俺の体も、ゴミのように地面を転げ滑っていく。
なくなる。
意識が無くなる。
考えられない。
散らばった自分を必死にかき集めても考えられない。
左腕が反乱する。 血液が氾濫する。 左腕の拘束は外れていないのに投影をしただけで知能指数は半分になって二度ともう戻らないような悪寒、悪い予感は現実になる、大切なものから無くしていくぞ。
「、あ」 強い風の中にいる。 強い光の中にいる。
見失った見失った。
あまりの痛みで見失った。
探しているのに見つからない。
我は砂漠に落ちた粒となって二度と誰にも見つからずただ乾いて乾いて乾いて乾いて
「シロウ! しっかりして、ちゃんと自分を見つけなさい……!」
イリヤがいる。
俺は倒れている。
黒い巨人から十メートルほど離れている。
巨人は弾き飛ばした俺を探すように、赤い両眼をギラつかせている。
「!」
意識が戻った。
悠長に倒れている場合じゃない。 体、体はまだ動く。 外傷は木の枝による擦り傷だけ、出血なんて滲む程度。 ただ苦しい。ぜいぜいと喘ぐ舌、走り通しで体の中には一息の酸素もなく満足な呼吸が欲しい。
それだけだ。 肝心なのは中身その中身も冷静に診断したくもないが、まだ充分に戦える!「イリヤ、一旦離れるぞ……!」 イリヤの手を握って立ち上がる。 体は無事でも今は酸素が欲しい。 たとえ一分でもヤツの間合いから離れて、呼吸を整えなくては話にならない! が。「……なんで? シロウ、自分がどうなってる
イリヤの背後には、こちらに狙いを定めようとするバーサーカー。 俺は俺で酸欠で頭が正常じゃなく、イリヤがどうしてそんなコトを言うのかが考えられない。「イリヤ?」「……ごめんなさい。けどもういいの。もういいから、シロウ一人で逃げて」
「」 俯いてイリヤは言う。 頭が回らない。 回らないから、完全に頭にきた。「ああもう、こんな時にまで駄々こねるなっ! 行くぞイリヤ、今はそんな場合じゃないだろう!」「あっ……!?」 イリヤの腕を引っ張る。 その小さな体が、その小さな体で俺を助けようとする心が、ひどく、尊いものに感じられた。「ちょっ
ふざけてる。 そんなの、どうしても何もない!
「理由なんてあるかっ! 俺はかってにイリヤを守るだけだ! いいか、兄貴はな、妹を守るもんなんだよ!」
「はあ!? ばっかじゃないの、わたしはシロウの妹なんかじゃないもん!」
「いいんだよ! 一度でもお兄ちゃんなんて呼ばれたら兄貴は兄貴だ! たとえ血が繋がってなくても、イリヤは俺の妹だろう……!」
「シロウ」
黒い巨人がこちらに向き直る。
「走れ、来るぞ……!」
考えるのは後だ。
今は全力で、あいつから距離を取らなければ……!
少し、異常だった。
イリヤの手を引いて走る速度は、自分の知っている衛宮士郎の脚力を遥かに凌駕している。
見覚えのある広場に出る。
「あ、はっ、っ、は!」
苦しげに吐き出される呼吸はイリヤのものだ。
体が麻痺しているのか、俺の呼吸は乱れていない。
酸素が足りなくて苦しいのに、呼吸そのものはまるでしていない。
まるで死人。 心臓はさっきから完全にストライキに入っている。「あ、だいじょう、ぶ、走れる、から……!」 握り返してくるイリヤの指は、恐ろしいまでに熱かった。 イリヤには初めから、走り続けられるほどの体力は付属されていない。
イリヤの設計には、人間のような運動など想定されていないからだ。「」 頭痛がする。 知りもしない知識が頭に入ってくる。 雑念は邪魔だ。 今は離れなければならない。 五感全てを封じられ、理性まで奪われたあの巨人が、すぐそこまで迫っている。 一時、何かの間違いで引き離したが、さっきのスピードは望むべく
尤も何も見えてない巨人にとっては、何に隠れようと無意味ではあるが。「しめた」 だが一つだけ幸運があった。 広場には地割れのような窪みがある。 それは以前、セイバーの宝具によって抉られた大地の傷痕だ。「イリヤ、こっちだ!」 イリヤの手をとって窪みに飛び込む。 塹壕じみた穴は人間二人を易々と収納した
「っ……!」 それも一瞬だ。 巨人は決して見失わない。 何処に逃げようと確実に追い、捕らえ、惨殺する。「………ぁ………、っ……」 押し殺した声は、傍らで縮こまった少女のものだった。 イリヤは声を殺して、こちらに負担をかけないよう、懸命に自分の体を抱いている。「」 限界だ。 これ以上は逃げられないし
言峰はこれが時限爆弾のスイッチだといった。 さっきの痛みが思い出される。 投影を使っただけで壊れかけた。 なら、この布を解いた時の痛みがどれほどのものなのか、想像する事もできやしない。 撃鉄は常に頭に。 赤い布に手をかける事は、銃口を口に入れて引き金を引くのと同じだ。 布をはがせば撃鉄が落ちる。
「」
覚悟を決めろ。
答えなぞ初めから出ていた。 イリヤを連れ戻して桜を助ける。
それがどういう事かは判っている。
イリヤをこのまま守りきって、あの得体の知れない影を倒して、桜から引っぺがす。
そんな、自分では手の届かない奇蹟を願った。
今でも全霊をかけて、その結末を望んでいる。
それが自分では叶えられない理想だと理解しても、諦める事さえ考えなかった。
「」
なら、いかないと。
桜を救って、イリヤも助ける。
そんなコトは出来ない。
死に行く者、破滅を迎えるしかない桜。
それを救うという事は奇蹟だと、誰かが言った。
そうだ。
人の身では成し得ない救い。
自分の手にあまる奇蹟を成し得るのなら、相応の代償が必要になる。
自分を守って誰かを守る事などできない。
破滅に進む桜を救う為には。
誰かが、その席を替わらなくてはならないとしたら。
大地が震えている。
暴風の具現が急速に近づいてくる。
「外に出る。あいつを倒していいな、イリヤ」
「え……?」
呆然と顔をあげる。
イリヤは、俺の右手が左腕にそえられている事に気がついた。
「だめ……! それだけはだめ、アーチャーの腕を使ったら戻れなくなる……! 死ぬのよ、いいえ、死ぬ前に殺されるわ。
シロウが、何も悪いコトをしてないシロウがそこまでする必要ない……!」
「それはなんとか我慢する。死にそうになってもなんとか我慢するから、イリヤは心配しなくていい。
ああ、あと一つ訂正。俺だって、悪いコトぐらいしてきたぞ」
「えシロウ……?」
「じゃ、行ってくる。イリヤはここで待っててくれ」
ぽん、とイリヤの頭に右手を置いて、亀裂の中で足を進めた。
イリヤから離れる。
バーサーカーをひきつけ、正面から迎撃する。
その時、万が一にもイリヤを巻き込まないように離れておかないといけない。
「来たな」
左肩、聖骸布の結び目に手をかける。
手首は際立って強く結ばれているので、引き剥がすなら肩口からだ。
あとは力任せに引っぺがすだけ。
それだけで、今まで経験した何十倍もの、あの痛みがやってくる。
「」
言峰は時限爆弾のスイッチだといった。 外せば導火線に火がつく。 爆発するのは一分後か一日後かは判らない。
ただ確実に判るのは、一度ついた火は決して消せないという事だけ。
舌が渇く。
覚悟したところで恐怖心は消え去らない。
不安で不安で叫びだしたくなる。
正気でいられるか、と。
俺は、俺自身が怖くて怖くてたまらない。
自分が死ぬのは当たり前だ。
だって、このままでいても殺される。
どちらにしても殺されるのなら、少しでも長く続く方を取るだけだ。
だから、恐ろしいのはただ一つ。
この体が壊れるより速く、俺の心が砕けてしまわないかという事だけ。
「はあ」
あの痛みに耐えられるのか。 戦う前に自分も判らなくなってイリヤも桜も判らなくなるのか。
判らなくなって、守ると誓った言葉さえ思い出せなくなるのか。
それが怖かった。
その一点が何より怖かった。
だから封じた。
この腕は決して使わない、死ぬような目にあっても使えないと判っていた。
……バーサーカーの姿は他人事じゃない。
左腕の痛みに耐えかね、正気を失えばああいったモノになる。
いや、その怖れは左腕がある限り有り続けるだろう。
この腕は俺を殺す悪夢の具現だ。
だが。
そこまで判っていて、ここまで残したのは何の為だったのか。
莫くしてしまえばいい。
そう思いながらここまで残した理由は一つだけ。
この腕は使われる為に有り続け、ヤツは必要だから俺に託した。
俺は俺自身に裁かれる、とヤツは言った。
悪いコトなんてしていない、とイリヤは言ってくれた。
「ああそれで充分だ」
贖いはここに。
己を裏切り、多くの命を犠牲にした。
譲れないモノは変わらず、その為に在り続ける。
赤い罰に力を篭める。
生きるか死ぬか。
立ち向かうための深呼吸をして、引き裂くように右腕を
瞬間。
世界が崩壊した。
「
、あ」
絶望が吹いている。
秒速百メートルを優に超える超風。
人が立つ事はおろか、生命の存在そのものを許さぬ強風が叩きつけられる。
既に風などではない。
吹き付けるソレは鋼そのもので、風圧に肉体が圧し潰される。
「
、が」
眼球が潰れる。
背中が壁にめり込む。
背中が壁にめり込む。
手を上げるどころか指さえ動かない。
逆流する血液。 漂白されていく精神。
痛みなどない。
痛みを感じ、堪えようとした事など、ここではあまりにも人間らしい。
「
あ、あ」
とける。
抵抗する苦悶さえあげられない。
何もない。 抗う術などない。
先に、前に進まなくてはいけないのに、指一本動かせない。
「
ああ、あ」
白くとける。
体も意識も無感動に崩れていく。
前へ。
なんのためにここにいるのか。
それでも前へ。
なんのためにこうなったのか。
あの向こう側に。
なんのためにたたかうのか。
この風を越えて、前へ。